童貞ソナタ

深夜零時十数分、ふと四日前の夢を思い出した。学校の部室でセックスをする夢だ。

 

第一楽章

夕月が濃くなり始めた頃、僕はただ一人、ポツンと部室の窓辺に座っていた。周りからは生活音すら聞こえてこない。他に誰がいるわけでもない。そんな判然としない空間が僕に、

いつもと何かが違う、そう思わせた。

 

現実か、幻想か。無理に答えを出そうとはしなかった。それ故か、幻想という背景を身にまとい、まるで、ずっとそこにいたかのように振る舞う彼女に戸惑いはしなかった。

 

心は通じ合っていたように思える。彼女の眼差しが、夜風に吹かれる草木の音とともに妙な説得力をまとい、僕にそう思わせた。そうか、僕は、彼女とともになりたいのか。

 

心地は良いはずなのだ。

しかし、不思議と罪悪感があった。

 

おそらく、そいつの正体は部室という空間そのものであろう。

しかし、その背徳感がより一層おのれの性への探究心を駆り立てた。

 

彼女との会話はあまりなかったと思う。数日前の夢であるが故に誰だったのかは思い出せない。というか、今となってみれば誰でもなかったのかもしれないが、かすみがかる彼女の顔は、確かに僕に微笑みかけ、僕を挑発した。

 

柔らかく正座する彼女に、窓から差す一筋の月明かりが、彼女という一つの作品を完成させていた。それはまるで、千利休に生けられた一輪の朝顔そのものであり、まさに侘び寂びの精神をその身一つで体現していた。僕は、彼女と朝顔の対比に思わず息を呑んだ。

 

「生花はお好きですか?」気が付くとそう呟いていた。

 

第二楽章

僕は彼女の顔を見つめ、ゆっくりと服を脱がした。

 

月明かりによって青白く透き通る肌。それがなす曲線は、抗うことの出来ない求心力となって、僕の心を不可逆的な世界へと導いた。たった今、世界の中心は彼女なのだ。

 

胸部に位置する二つの一等星は、思いもよらぬ輝きを放っており、僕の視線を吸い寄せ、そして心躍らせた。これはまさに、はるか昔の生命が紡ぐ、原初の生きる術であり、本能がそれを欲した。

 

しばらく夢中になっていた僕を見かねて、彼女はやさしく僕の手を下へ下へと誘導した。

 

僕は、されるがままにゆっくりと彼女の局部を触った。それはまるで剣山かのような鋭さを誇っていたが、剃りたてなのだろうと気が付いた途端、途方もなく愛おしくなった。

 

彼女は少し恥ずかしそうにしていた。僕の中で完成されていた彼女は所詮、青い理想を語る僕の中の虚像でしかなく、

"隙"という愛の入り口を教えてくれた彼女に感謝した。

 

涙を浮かべた眼差しは、ここからが本番なのだと悟らせた。

 

 

第三楽章

僕は彼女の了解も得ず、おもむろに挿花した。

するとその瞬間、衝撃が走った。

 

僕の愛情が体の隅々まで、深く根を張っていくのが分かった。

もはや彼女は、花器と言うにはあまりにも大きく、壮大な大地となって僕を包み込んだ。

 

今までの欲望がここにきて一気に爆発した。

僕は荒々しく突進した。以前までの自分とはまるで違った。

獣と化した自分が恐ろしかった。もう後戻りは出来ないのだと一瞬にして理解した。

 

そこからは早く、やがて力の限りを尽くし、全てを吐き出した。

 

ここで僕は目を覚ました。額からは汗が滴り落ちていた。

強く鼓動する心臓は、この夢の概要をより濃く記憶の中に印象付けた。

 

訳のわからぬ涙のうちに、僕は敗北したのだと知った。

 

しまった。負けたのか。

 

しばらく天井を見つめ、ひと呼吸。

 

天啓の如き夢の浮き橋は、僕を脱衣所へと向かわした。

 

正夢という二文字を浮かばせながら。